徒然なるままに妄想を吐き出します。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
政兼祭に投稿したお話の続きです。
*****
江戸の上杉邸の門の前に人影がひとつ。手土産を持った、その人影がここに現れてから、かれこれ小一時間は経過している。
先日、雨に打たれて風邪をこじらせてしまい、政宗は上杉家の家老・直江兼続の世話になった。不可抗力とはいえ、普段いがみ合っている相手とはいえ、世話になってしまったのだ、礼だけはしなければならない。兼続はこのような些細なことは気にしないだろうが、政宗は菓子折りの一つや二つを重臣の片倉景綱に持たせて、この件については貸し借りなしにしようと思っていた。
しかし、景綱は政宗自ら行くことを強く勧めた。政宗は代わりに行くように何度も命を下したのだが、景綱は政宗自らが行くべきだと主張した。主従で言い争っているうちに従兄弟の成実も景綱側に加わり、分が悪くなった政宗は仕方なく屋敷を後にしたのだった。
上杉邸の門の前に着いたまでは良かった。
いざ、門番に取り次いでもらおうとした政宗だったが、立ち止まってしまったのだ。
このまま門番に手土産を渡し、一言だけ世話になったと伝えてもらうだけでもいいのではないか。
最近の自分はおかしいのだ。四六時中兼続のことを考えている。文を読んでいるときも、食事をしているときも、床に入っても、兼続のことばかり考えている。涼しい日があれば風邪などひいてはいないだろうか、暑い日があればバテてはいないだろうか、刻々と過ぎて行く日常で彼のことを思い出してしまう。
相手は初めて会ったときから全てが相容れぬ、あの直江兼続なのだ。長年、会うたびに口論をゆうに超える大きな喧嘩ばかりしてきた相手なのだ。
こんなこと、あり得ぬ。
自分で自分が信じられぬ。
あの時、普段と異なる兼続を見た。眉間にしわを寄せ、厳しい口調で政宗を糾弾する普段の兼続とは全くの別人だった。自分をいたわってくれる手はとても優しくて、かけてくれた声は穏やかで、何よりも初めて見た柔和な表情は政宗にとって衝撃なもので、忘れられないのだ。同時に、あの表情を石田三成や真田幸村はいつも見ているのだと思うと、羨ましくて仕方がなかった。
できることなら、あの顔を自分にも向けてほしい。
誰だって、余程のことがない限りずっと嫌われたいとは思わない。親密とか特別とか、そこまでじゃなくてもいい。せめて穏やかに会話ができるくらいにはなりたい。
そう思うようになってしまった。
今、兼続に会ってしまうと、きっと普段の自分ではいられない。
取り次いでもらうか、それとも言付けしてもらって帰るか。そう悩んでかれこれ小一時間は経過してしまっている。
目の前を政宗にずっとうろうろされて上杉家の門番もほとほと困り果てていた。とても声をかけられる雰囲気ではないのだ。
そこに聞こえてくる天の声。
「政宗殿ではないですか!」
「真田さま」
「・・・・・・真田、だと?」
政宗が振り返ると、そこには長身の真田幸村が立っていた。
「兼続殿にご用ですか?私もそうなので、ご一緒に行きませんか?」
「べ、別に兼続に用事など・・・・・・!」
「そうおっしゃらずに。先日のお礼にいらっしゃったのでしょう?」
何故それを知っている!
政宗は左目を見開く。それと同時に頬に朱が染まっていくのが分かる。
「兼続殿、喜びますよ」
純真無垢な笑顔を見せる幸村を、政宗は赤い顔のまま睨みつけるが、全く効果がない。強引に政宗を上杉家の屋敷の中に入れてしまう。
腹を括るしかないのか。
幸村の一歩後ろを歩く政宗は、手土産を包んだ風呂敷の持ち手を強く握る。
柄にもなく緊張している。心臓が、幸村にも聞こえているのではないかと錯覚するほど、うるさく鳴り響いている。
幸村と政宗は、庭に面した客間に案内された。幸村は何度も訪れているようで、勝手に縁側に陣取った。
「政宗殿もこちらにどうぞ。ああ、兼続殿は気にしませんから」
幸村に言われるまま、政宗も縁側に腰を下ろす。
手入れの行き届いた庭の木々で鳥たちがさえずる。池の淵に植えられた花たちが風になびく。静寂が、兼続を待つ幸村と政宗を包む。
政宗がちらりと幸村の横顔を見る。それに気が付いた幸村がやはりにっこりと笑う。幸村の笑顔に邪気はない。しかし邪気のない笑顔こそ厄介なものだ。
それに耐えられなくなった政宗は、舌打ちをして視線を自分の足下に逸らした。
心臓は相も変わらず大きな鼓動を鳴らしている。待っているだけでこんなにも緊張しているのだから、実際兼続に会ったとき、心臓が爆発するのではないだろうか。
爆発する前に、この場から逃げ出してしまいたい。
幸村が何もしゃべらないのも、政宗に更なる緊張感を与えている。
確かに幸村は余計なことはしゃべらない。しかし、政宗が普段の状態ではないことくらい、敏い幸村なら理解し、他愛のない話をして緊張をほぐしてくれそうなのだが、それをしようとしない。
沈黙に耐えられなくなったのは、政宗だった。
「ゆ、幸村はこの屋敷に何度も来ておるのか?」
「はい。兼続殿にいつでも来ていいと言われておりまして。今日も兼続殿が探していた書物が見つかったのでお届けに来たのです。喜んでいただけるといいのですが」
そう答える幸村の表情が戦場で見せるものとは全く正反対の柔らかいものだったので、政宗は全てを悟る。
幸村は、兼続のことが好きなのだ。
そして、自分も兼続のことを・・・・・・。
2010/07/28up
もう少し続きます。
よろしければお付き合いくださいませ。
先日、雨に打たれて風邪をこじらせてしまい、政宗は上杉家の家老・直江兼続の世話になった。不可抗力とはいえ、普段いがみ合っている相手とはいえ、世話になってしまったのだ、礼だけはしなければならない。兼続はこのような些細なことは気にしないだろうが、政宗は菓子折りの一つや二つを重臣の片倉景綱に持たせて、この件については貸し借りなしにしようと思っていた。
しかし、景綱は政宗自ら行くことを強く勧めた。政宗は代わりに行くように何度も命を下したのだが、景綱は政宗自らが行くべきだと主張した。主従で言い争っているうちに従兄弟の成実も景綱側に加わり、分が悪くなった政宗は仕方なく屋敷を後にしたのだった。
上杉邸の門の前に着いたまでは良かった。
いざ、門番に取り次いでもらおうとした政宗だったが、立ち止まってしまったのだ。
このまま門番に手土産を渡し、一言だけ世話になったと伝えてもらうだけでもいいのではないか。
最近の自分はおかしいのだ。四六時中兼続のことを考えている。文を読んでいるときも、食事をしているときも、床に入っても、兼続のことばかり考えている。涼しい日があれば風邪などひいてはいないだろうか、暑い日があればバテてはいないだろうか、刻々と過ぎて行く日常で彼のことを思い出してしまう。
相手は初めて会ったときから全てが相容れぬ、あの直江兼続なのだ。長年、会うたびに口論をゆうに超える大きな喧嘩ばかりしてきた相手なのだ。
こんなこと、あり得ぬ。
自分で自分が信じられぬ。
あの時、普段と異なる兼続を見た。眉間にしわを寄せ、厳しい口調で政宗を糾弾する普段の兼続とは全くの別人だった。自分をいたわってくれる手はとても優しくて、かけてくれた声は穏やかで、何よりも初めて見た柔和な表情は政宗にとって衝撃なもので、忘れられないのだ。同時に、あの表情を石田三成や真田幸村はいつも見ているのだと思うと、羨ましくて仕方がなかった。
できることなら、あの顔を自分にも向けてほしい。
誰だって、余程のことがない限りずっと嫌われたいとは思わない。親密とか特別とか、そこまでじゃなくてもいい。せめて穏やかに会話ができるくらいにはなりたい。
そう思うようになってしまった。
今、兼続に会ってしまうと、きっと普段の自分ではいられない。
取り次いでもらうか、それとも言付けしてもらって帰るか。そう悩んでかれこれ小一時間は経過してしまっている。
目の前を政宗にずっとうろうろされて上杉家の門番もほとほと困り果てていた。とても声をかけられる雰囲気ではないのだ。
そこに聞こえてくる天の声。
「政宗殿ではないですか!」
「真田さま」
「・・・・・・真田、だと?」
政宗が振り返ると、そこには長身の真田幸村が立っていた。
「兼続殿にご用ですか?私もそうなので、ご一緒に行きませんか?」
「べ、別に兼続に用事など・・・・・・!」
「そうおっしゃらずに。先日のお礼にいらっしゃったのでしょう?」
何故それを知っている!
政宗は左目を見開く。それと同時に頬に朱が染まっていくのが分かる。
「兼続殿、喜びますよ」
純真無垢な笑顔を見せる幸村を、政宗は赤い顔のまま睨みつけるが、全く効果がない。強引に政宗を上杉家の屋敷の中に入れてしまう。
腹を括るしかないのか。
幸村の一歩後ろを歩く政宗は、手土産を包んだ風呂敷の持ち手を強く握る。
柄にもなく緊張している。心臓が、幸村にも聞こえているのではないかと錯覚するほど、うるさく鳴り響いている。
幸村と政宗は、庭に面した客間に案内された。幸村は何度も訪れているようで、勝手に縁側に陣取った。
「政宗殿もこちらにどうぞ。ああ、兼続殿は気にしませんから」
幸村に言われるまま、政宗も縁側に腰を下ろす。
手入れの行き届いた庭の木々で鳥たちがさえずる。池の淵に植えられた花たちが風になびく。静寂が、兼続を待つ幸村と政宗を包む。
政宗がちらりと幸村の横顔を見る。それに気が付いた幸村がやはりにっこりと笑う。幸村の笑顔に邪気はない。しかし邪気のない笑顔こそ厄介なものだ。
それに耐えられなくなった政宗は、舌打ちをして視線を自分の足下に逸らした。
心臓は相も変わらず大きな鼓動を鳴らしている。待っているだけでこんなにも緊張しているのだから、実際兼続に会ったとき、心臓が爆発するのではないだろうか。
爆発する前に、この場から逃げ出してしまいたい。
幸村が何もしゃべらないのも、政宗に更なる緊張感を与えている。
確かに幸村は余計なことはしゃべらない。しかし、政宗が普段の状態ではないことくらい、敏い幸村なら理解し、他愛のない話をして緊張をほぐしてくれそうなのだが、それをしようとしない。
沈黙に耐えられなくなったのは、政宗だった。
「ゆ、幸村はこの屋敷に何度も来ておるのか?」
「はい。兼続殿にいつでも来ていいと言われておりまして。今日も兼続殿が探していた書物が見つかったのでお届けに来たのです。喜んでいただけるといいのですが」
そう答える幸村の表情が戦場で見せるものとは全く正反対の柔らかいものだったので、政宗は全てを悟る。
幸村は、兼続のことが好きなのだ。
そして、自分も兼続のことを・・・・・・。
2010/07/28up
もう少し続きます。
よろしければお付き合いくださいませ。
PR
この記事にコメントする