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タイトルはいつもの通り、恋したくなるお題さまよりお借りしました。
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久しぶりに訪れた上杉家の屋敷の中で、私は最愛の人を探していた。近くまで来たから、会いたくなって寄ったのだ。
長い廊下を歩き、屋敷の裏庭に出ると、その人はそこにいた。
「兼続殿!」
そう名前を呼べば、漆黒の髪を揺らして私の方を向いてくれる兼続殿。
兼続殿に思いを寄せるようになって、もう何年経つのだろう。
「幸村!」
私の名前を呼んで、手を振ってくれる兼続殿の一歩後ろには、茶色の髪の独眼竜という二つ名を持つ男。彼は最近、兼続殿の近くにいる。
以前の兼続殿と彼は己の価値観や信念の違いから、常時険悪な雰囲気であったのだが、いつの間にか二人の間に流れる空気は違うものになっていた。私や三成殿といるときとは異なる穏やかな空気。
「兼続、先に行っておるぞ」
「すまない。また後で」
政宗殿にそう言う兼続殿はにこやかだ。政宗殿も、表情こそ変えなかったが、声で兼続殿に心を許しているのが分かる。
苦しい。
兼続殿と先に出会ったのは私なのに。
それなのに、いつの間にか兼続殿の心の中に政宗殿がいる。
それが苦しくて、悔しくて。
「幸村?どうした?どこか具合でも悪いのか?」
兼続殿が私の顔を覗き込んで、心配そうな顔をしている。
違う。私は兼続殿にこんな顔をしてほしいのではない。
「大丈夫ですよ、兼続殿」
「そうか?でも無理はするなよ」
そう言った兼続殿は、私の思いなど全く気付いていないのだろう。昔と同じ、幼子にするように、私の髪を撫でて笑うのだ。
もう、私は幼子ではないというのに。七つという年の差はやはりあるのですか?
思った瞬間、私は兼続殿を腕の中に閉じ込めていた。
漆黒の髪が頬を掠める。
「幸村?」
訝しげに私の名前を呼ぶ兼続殿。
「すみません、少しの間だけ、どうかこのままで」
「・・・・・・うむ」
少しだけの間。どちらとも何の言葉を発せずにいた。
だけど、我慢できなくて、口を開いたのは私だった。
「私は、兼続殿のことが好きです。もう、ずっとずっと、初めて会ったときから、ずっと好きでした。だけど、あなたには政宗殿がいる」
ずっと口にするまいとしていた思いをぶちまける。
「政宗殿なら、貴方をお任せすることができる。どうか、幸せになって」
そこまで言って、私は兼続殿を腕の中から解放する。そして、踵を返す。
きっと苦虫を潰したような顔をしているに違いない。兼続殿には絶対に見せたくない顔。兼続殿の前では、いらぬ心配をかけたくないから、いつでも笑っていたいのに。
この場にいたくなくて速足で歩く私の名前を、兼続殿が叫ぶ。
ごめんなさい、今は振り向きたくないのです。
「待て幸村!言うだけ言って去るなんて、不義ではないか!」
兼続殿の叫び声に、私の動きは止まる。
そして、振り向こうとした瞬間、私の背中に衝撃が。前に回ってきた二本の腕で、兼続殿が私を背中から抱き締めているのに気付く。
「馬鹿、幸村の大馬鹿者」
「すみません、でも」
「でもも何もない!」
兼続殿は一度叫んで、次に小さい声で続けた。
「頼む、幸村。私の前で『いい子』振るのは止めてくれ。そんなことする必要など、全くないのだ。それに、政宗に任せるとは一体何だ?」
「ですから、それは政宗殿なら兼続殿を幸せにできると・・・・・・」
「私の幸せは、幸村、お前と共にあることなのに、何でそんなことを、言うのだ」
それって・・・・・・。
兼続殿の腕を解き、私は後ろを向いて向き合う形になる。
兼続殿は真剣な表情をしている。
「それは、本当ですか、兼続殿」
額にかかった黒髪を除けて形のよい額に自分の額をくっ付ける。
視線を逸らされたが、この人が、嘘をつくことはない。それだけは昔から知っている。
「・・・・・・本当、だ。ずっと言うまいと思っていたのだ。だけど、幸村が、幸村が」
「ごめんなさい」
うっすらと朱に染まった兼続殿の両頬を包み、目じりにそっと口付ける。
「んっ」
くすぐったそうに目を閉じる兼続殿が可愛らしい。
「私は、兼続殿が好きです」
再び告げると、兼続殿は私もだ、と言って両腕を私の背中に回して抱きついてくる。
私も兼続殿をぎゅっと抱きしめて、頬をすり寄せた。
自然な流れで口付けて、私はこの人を一生守るのだと誓うのだった。
2010/11/01
2010/11/27加筆修正up
幸村相手だと積極的な兼続殿。
そして、このサイト初めてのキスシーンです。恥ずかしかったです(//∀//)
最初、幸村目線の政兼だったことは内緒です。
ごめんね政宗!