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政兼←三です。
長宗我部夫妻(菜々さんは捏造)が出てますので、閲覧の際はご注意ください。
タイトルはいつもの通り、恋したくなるお題さまよりお借りしております。
*****
一年の暮れも近付いてきた大坂城。三成の主である天下人・豊臣秀吉の発案で、ここ大坂城にて各大名が招かれ、盛大な酒宴が催されている。
この日の宴は、異国の宗教の神の誕生を祝うのに因んだものだ。秀吉はこの宗教を禁止しているが、こういう宴は別とのことらしい。各大名はその土地の名産品を秀吉に贈り、秀吉も返礼として各大名に見合ったものを贈る。贈り物を交換するのも、この祝いに因んだものであるらしい。
三成の意中の者も、主君・上杉景勝に付き従い、この宴に参列していた。
三成は秀吉の計らいで、仲の良い直江兼続、真田幸村と共に酒宴を囲んでいる。この直江兼続こそが三成の意中の者である。
若い美丈夫が三人揃えば、大坂城内の下働きの女性たちの視線は彼らに釘付けになる。三人それぞれの雰囲気が異なるところがまた女性たちを楽しませている。冷徹怜悧だが理想には実直で時折優しさを見せる三成、はにかんだ表情が可愛らしいが一度槍を持てば日ノ本一の兵に変貌する幸村、そして清廉潔白にして頭脳明晰だが時折抜けた表情が愛らしい兼続。三人揃えば、そこだけが別世界になる、とはとある大名の奥方の談話。
「皆、場所を替えるぞ。ついて参れ」
宴の中盤で、秀吉が主演場所を移動するよう指示をする。
秀吉が皆を連れてきたのは、大坂城の中で最も広い広間であった。その大広間に面した庭に視線を移せば、四国の雄、長宗我部元親とその妻である菜々と家臣団が一列に並んでいた。
「我らの唄と舞をどうぞご覧くださいませ」
元親が三味線を弾き、低音だが澄んだ声で唄う。菜々がその隣で双剣を使って舞う。元親と菜々の、二人の息はぴったりと合っていて、見ている者全てを魅了する。至るところから感嘆の声が上がっている。
元親と菜々は、いつでも共に行動している。宴の席でも、戦場でも、互いを支え合っている。まるで一心同体のように。
お互いを信じあっている元親菜々夫妻を羨ましいと三成は思う。
ああ、愛というのはあのように慈しみあうことをいうのだろうな。
「おい兼続。大丈夫か?」
三成が兼続の顔を覗き込む。
普段の兼続なら、酒が入ると冗長さが更に加速するのだが、今宵は静かだ。
元々大酒飲みであるし、自分より先に潰れるということもない。そんな兼続が黙ったままなのだ、おかしいと三成が思うのは不思議ではない。兼続を挟んで向こう側に座っている幸村も心配そうな顔をしている。
三成の見た兼続の表情は、目がとろんとしていてすぐにでも眠ってしまいそうだった。明らかに酔っている。
「政宗と私の間にあるものは、一体何なのだろう。元親殿と菜々殿のようにはっきりとした絆がある訳ではない。これからも価値観の違いから衝突することはあるだろう。しかし、それも政宗の一部だと思えば愛おしいのだ」
そう兼続は静かに言うと、三成の肩に頭を預けて眠りの世界に足を踏み入れようとしている。
兼続が奥州王・伊達政宗との関係で悩んでいるのは三成も幸村も知っている。
絶対的な価値観が異なるのに、惹かれ合ってしまった兼続と政宗。三成と幸村は何度諦めるように諭したことか。それでも、兼続は政宗を想うことを止めない。いや、止められないのだろう。そんな兼続も三成の愛する兼続なのだ。三成はいつでも兼続の幸せを願う。
ただ、政宗が兼続のことを本当に想っているかどうかは三成にはわからない。
「ほら、兼続。寝るなら別室に行くぞ。風邪をひく」
三成がうつらうつらとする兼続を起こそうとすると、兼続の口から小さく政宗の名前を呼ぶ声がこぼれた。そして、少しだけ居心地が悪そうに身じろぎをする。
そういえば、兼続は今日政宗と会ったか?
三成はふと疑問に思う。
会っていないような気がする。というか、三成は政宗の姿すら見ていないような気もする。大坂に着いてからの兼続は景勝と一緒だったか、自分と幸村と一緒だった。景勝といた時間帯は分からないが、少なくとも自分と幸村と一緒にいた時間帯では、政宗の姿を一目も見ていない。
「幸村。政宗がどこにいるか知っているか?」
尋ねてみれば、幸村も知らないと言う。
「仕方あるまい。探すしかないだろうな」
小柄な三成が大柄な兼続を抱き上げる。
「三成殿、私が」
「いや、平気だ。兼続はこう見えても軽いのだよ」
それに、いくら幸村とはいえ、この一時だけとはいえ、兼続を渡したくないのだ。
自分にこのような独占欲があるなんて、兼続と出会うまで三成は知らなかった。このまま兼続を攫って佐和山に閉じ込めてしまいたい。自分以外の誰かと接することなく、自分だけを見ていてほしい。だが、そんなことをしてしまったら、三成の大好きな兼続はこの世界から消えてしまう。
だから、三成は兼続が政宗と幸せになれることを祈る。兼続が自分を選ばなかったことを恨むことはない。兼続が笑っていられるのなら、己はただ身を退くだけ。
「治部少輔殿に真田左衛門佐殿」
兼続を抱き上げたまま廊下を歩いていたら、長宗我部夫妻が声をかけてきた。
「宮内少輔殿、菜々殿。先程は見事な演舞を見せていただき、ありがとうございました」
「何、我らができるもてなしはあれくらいしかないのだ。少しでも皆の中に残ればこの鳥なき島の蝙蝠、悔いはない」
三成と元親が話をしていると、三成が兼続を抱き上げているのに菜々が気付き、兼続の顔を覗き込んできた。
「まぁ、山城さまが珍しいこと」
くすりと笑う菜々。
「このようなお顔もされるのですね。まるで迷い子のよう・・・・・・。山城さまが少しでも癒されますよう・・・・・・」
菜々が兼続の髪を撫でる。
菜々の手が優しい光に包まれているように見える。元親と並んで戦場に立つ菜々は厳しい表情をしていることが多いが、普段は心優しい女性なのだ。彼女の優しさに救われている者も多いだろう。
「ああ、そうだ。宮内少輔殿は伊達殿がどこにいるかご存じか?」
三成が尋ねると、菜々が答えた。
「お部屋に戻られるのを見ましたわ。どこか残念そうなご様子だったので、もしかして山城さまとお会いできなかったのかな、と。誰かを探していらっしゃるような雰囲気もございましたし」
「菜々。その辺にしておけ」
「あ、ごめんなさい」
元親に窘められ、菜々がちょこんと頭を下げる。
この夫妻はどこまで知っているのだろうかと疑問に思ったが、三成と幸村は二人に礼を言って政宗がいるであろう部屋に向かった。
菜々の言うことを信じるのならば、政宗はきちんと兼続のことを想ってくれているということなのだろうか。
三成は疑問を持ちつつ、そして不本意ながら兼続を政宗の元へ運ぶ。
「伊達殿はいるか?」
事務的な口調で来訪を告げれば、政宗の家臣が一間置いてから襖を開けた。
政宗は腹心の片倉景綱と酒を飲んでいた。若干俯いている政宗の表情は、三成が立っている位置からはよく見えない。しかしながら、片倉が何やら宥めている様子からして、機嫌が良くないのは一目瞭然だった。
「何の用じゃ、三成」
「ふん。それが貴様の会いたがっていた兼続を連れてきた人間に対する返答か」
「兼続、だと?」
そこで漸く顔を上げる政宗。杯を乱暴に置き、酒瓶を蹴散らすように立ち上がる。
「兼続!」
「きちんと捕まえておけ。捕まえておかねば、俺と幸村が、いや俺たちだけじゃない、他の奴らが掻っ攫っていくぞ」
戦場にいるときと同じような厳しい表情で、三成は政宗に兼続を渡す。本当は渡したくないのだが。
政宗の腕の中に移された兼続が一瞬だけ目を開けて、その視界に政宗を入れた。すると、安心したのか政宗の胸に顔をすり寄せて安らかな寝息と共に、再び眠りの世界に入ってしまった。
兼続の幸せそうな顔を見た三成は、政宗の部屋を後にする。
後ろからついてくる幸村が、あれでよかったのかと尋ねてくる。
「いいのだ。俺は兼続が悲しむことはしたくないだけだ」
「ですが・・・・・・!」
「言うな、幸村。お前だってそうしただろう?もし、兼続がお前を選んだとしても俺は同じことをしただろうな」
これでいいのだ。兼続のことが好きだから。
兼続と政宗が今後どのように想いを深めていくかなんて分からない。だけど、三成が兼続のことをずっと好きでいることに変わりはない。
そして、ほんのわずかだが政宗が兼続のことを想っている事が分かっただけでもよかったと思う。兼続を見る政宗の顔がとても柔らかかった。初めて見る顔だった。
兼続の前であの顔ができるのならば、少しの間預けてみてもいいのかもしれない。
だが、少しでも兼続が弱音を吐いたときは、今度こそ容赦はしない。
「幸村、美味い酒があるのだ。飲もうではないか」
夜宴はまだまだ続く。珠には幸村と膝をつめて飲むのも悪くはない。
三成は幸村を安心させるように笑った。
2010/12/17
2010/12/31加筆修正up
最初は普通のクリスマス向けの政兼だったんですが、途中から三成の悲恋話になってしまいました。三成は悲恋話がよく似合う。
次は幸せな三兼話を書いてみたいな。